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詳細記載 (6):1号機ベント排気の原子炉建屋内への逆流

(ベント・ラインについて)
ベント・ラインは、チェルノブイリ事故の後、過酷事故対策として、元々あった非常用ガス処理系配管をバイパスする形で設置されたものである。圧力抑制室から非常用ガス処理系の出口部分までに新たな配管が設置された。事故により格納容器の圧力が異常に高くなって壊れるのを防ぐために、蒸気を外に逃がして圧力を下げるのが目的である。
オリジナルの設計はボストン・エジソン社がピルグリム(Pilgrim)原発で行なった改造である。次の図はNRC Generic Letter 89-16に掲載されているものである。この図では非常用ガス処理系はSBGTと略記されている。斜線の部分が追加された部分で、耐圧性の無いダクト部分を迂回して耐圧性パイプが敷設されている。公表されている図の文字が読み取りにくいので、色のついた字を付した。赤色の数字を付したのは弁の番号。108のFOはフェイル・オープン、112のFCはフェイル・クローズの略で、通常電源喪失時の弁の開閉状態を示している。
601_NRC_Boston-Edison_1988-89.jpg

次の図は福島第一原発で「耐圧強化ベント」を設置した時に安全・保安院に提出した報告書の概念図である。非常用ガス処理系はA系とB系の2系統あるが、1つに省略されている。そのほか細かいところは色々省略されているが、基本的にはピルグリム原発の設計を踏襲しているのが分かる。
602_tepco-H14-AM.jpg

(電源の違い)
しかし、東電のものはオリジナルと異なる点がいくつかある。その一つは、アメリカの設計では交流電源が全滅した場合を想定し、必要な弁の開閉は直流電源で作動するように変更しているのに対し、東電のものは交流電源作動のままにしている点である。
東電がベントラインを増設したのは過酷事故対策の一環であり、他にも色々な改良というか設備の追加を行なっている。非常用のディーゼル発電機を増設したのもその一つである。おそらく東電は、電源は非常用の交流電源を増設することで充分であり、直流に変える必要は無いと考えたのだろう。
では、なぜアメリカの設計では交流から直流に変えたのか。これは次のように説明できると思われる。もし交流電源が使えるのなら、他の複数の冷却機能が使えるはずであり、ベントラインを使う事態には至らないであろう。ベントしなければならないような事態になるということは、交流電源が(非常用も含めて)全滅しているはずなのである。だからここはどうしても直流でないといけない。
1号機の非常用ガス処理系の弁の状態を示したのが次の図である(原子力安全・保安院、2011年12月27日の公表資料から)。弁の横に添えられている開閉の文字は、左が通常待機時、右が電源喪失時の開閉状態を示す。
603_u1-sgts_hoanin_20111227.jpg
この図のように、非常用ガス処理系配管の出口側(図の右側)の弁は、電源喪失時には開いた状態になる。ベント実施時には、この弁を閉じないとベントラインから逆流して、原子炉建屋に流れ込んでしまう。全交流電源が喪失したため、東電はこの弁を閉じることができないまま、ベントを実施したのである。
オリジナルのピルグリム原発であれば、該当する108と112番の弁を125Vの電池で閉操作を行なってからベントを実行することになっており、ここが開いたままベントをすることはあり得ない。

(現場の工夫でベントの弁を開けた)
ベントの弁は手動でも開けることができるようになっていたが、地下1階の線量が高すぎて、弁まで行く途中で断念した。弁を開閉するための電源を失っていたのに、では、どのようにしてベント弁を開けることができたのだろうか。
弁は、圧縮空気または圧縮窒素を送ることで開く仕組みになっている。政府事故調査報告書によると、協力企業の過搬式コンプレッサーを計装用圧縮空気系(IA系)に接続して圧縮空気を送ったということである。その際、接続ができるように配管口の加工を行なっている。また、同時に圧縮空気を送り込むラインの電磁弁を開ける必要があるのだが、そのために、仮設照明用の小型発電機を使ったということである。
ここで使われたコンプレッサーや小型発電機は、普通の工事現場で使われるものであり、原発用の特殊な装備ではない。緊急時のマニュアルに書かれているとは思われず、現場の判断で臨機応変に利用したと考えられる。
このように、汎用の工事用機器があれば、なんとか弁を操作することができた。しかし、非常用ガス処理系の弁を閉じて逆流を止める操作は行なわれなかった。その作業は、同様の方法で可能だったのかもしれないが、ベントを実行することに必死で、逆流防止の必要性を理解する時間など、皆無であったと思われる。
604_u1_vent-valve.jpg

(2号機側に逆流していた)
非常用ガス処理系配管が1号機のものと繋がっている2号機側に、1号機のベント流が逆流したことが確認されている。東電が2015年5月20日に公表した「福島原子力事故発生後の詳細な進展メカニズムに関する未確認・未解明事項の調査・検討結果のご報告~ 第3回進捗報告~」で報告されている。
2014年11月に実施されたロボット調査により、2号機の非常用ガス処理系フィルタートレインの線量が非常に高いことが分かった。また、線量は出口側の方が入口側より高いことから、1号機から逆流したことが推定された。
605_u2-sgts-filter-A.jpg
606_u2-sgts-filter-B.jpg
また、2号機ベントラインを調査した結果、弁やラプチャーディスクの線量は高くないことが明らかになり、2号機のベントは失敗したことがはっきりした。
607_u2-ventline-rupture.jpg
なお、細かいことだが、上の図では排気ファンの左側にもグラビティーダンパーの記号があるが、下の図では弁になっている。おそらく下の図の方が正しいと思われる。
608_u2-sgts_hoanin_20111227.jpg

(グラビティーダンパー)
グラビティーダンパーという逆流防止のための板があるが、これは元々ベント配管付設以前からあった空調設備である。ダクトに取り付けるもので、高圧に耐えうるものではない。
通常、空調用のダンパーとは、屋外の強風が内側に逆流するのを防ぐためのものである。非常用ガス処理系の場合は、A系とB系の2つが並列して設置されていて、それぞれに排気のための換気扇があり、緊急時には一つが起動し、他方は待機状態となる。作動していない側に排気が逆流しないように、ダンパーが付けられている。
次の写真はメーカーのHPに掲載されている原子力施設用もので、第一原発のものと同じかどうか分からないが、参考のために示す。
609_grav-top1.jpg
横についている錘でバランスされていて、内側からのわずかな送風でも開くようになっている。逆方向には開かないが、完全に封鎖できるものではない。写真の製品の性能は、圧力差2000Pa(2kPa)で漏えい量1.80㎥/min・㎡とのことである。これ以上の圧力差のデータは載っていないので、高圧用でないことは明らかである。ちなみに、1号機ベント時の圧力差は約640kPaであり、全く比較にならない。
次の図は、前掲の2号機フィルタートレインA系の図を拡大したものである。左側に排風機があり、そこから上に立ち上がっている。四角い箱状のものがグラビティーダンパーだと思われる。模式図では横になっているが、実際はこのように縦になっている。
610_u2-sgts-filter-A_c_150520.jpg
このグラビティーダンパーの内側のフィルターが強く汚染されているので、グラビティーダンパーがベント流を止められなかったのは明らかである。従って、当然1号機側でも非常用ガス処理系に逆流したと考えられる。

(1号機のフィルタートレインが未調査の件)
非常用ガス処理系のフィルタートレインがある場所は、構造的には原子炉建屋の2階であるが、部屋の入口はタービン建屋側に付いている。下の図のように入口に近づくにつれて線量が上がり、入口では5000mSv/h(5Sv/h)以上となっている。あまりの高線量のため、内部は未調査のままだと思われる。
611_110803_sgts_vhra.jpg

(1号機原子炉建屋内にベント排気が逆流した)
以上、見てきたように1号機のベント排気が非常用ガス処理系に逆流したのは明らかである。そこからさらに遡って、通常の空調系のダクトを通り、原子炉建屋内に流入した。原子炉内で発生した水素もこれに含まれていた。これが1号機建屋爆発の原因である。
フィルタートレインがどの程度耐圧性があるか分からないが、ガス以外の成分のかなりの部分はフィルターで止められ、建屋内の汚染度はベントラインに比較して低いものとなっている。また、爆発時およびそれ以後に建屋から放出された放射能は、ベントに比べるとずっと少ない。
なお、詳細記載(3)で述べたように、ベント実施以前に、すでにベントラインを通る外気へのリークが発生していたと考えられるが、同時に建屋内への逆流も起こっていたと思われる。12日4時ごろ、原子炉建屋二重扉の内側に白いもやが見えたとのことであるが、これは逆流した蒸気がダクトの空気取り入れ口から建屋内に流れ込んだものだと思われる。
原子炉建屋内の線量が上がった場合、原子炉から直接リークしたと思い込むのが普通であろう。しかし実は、ベントラインから非常用ガス処理系と換気系を逆流して、換気用のダクトから建屋内に流れ込むルートがあったのである。

(ベント配管の設計に関して)
上記のようにベント配管は発電所建設当時には無く、後に付加的に設置されたものである。ベント配管の設計に関して、東電のものは米国のオリジナルの設計と異なる点がいくつかある。今回は弁操作の電源の違いに注目したが、それ以外にもラプチャーディスク作動圧が福島の方が高いという重要な違いなどがある。
オリジナルとの相違点については、事故の要因について考察する別のシリーズに記載するつもりである。

以上
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